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あの人に会いたい~三浦綾子 「氷点・続氷点」

将棋棋士、羽生義治さんが「あなたの愛読書は?」と聞かれると
必ず、三浦綾子さんの「氷点」と答えていることを御存知でしたか?
三浦綾子さんには、一度だけ、東京でお会いしたことがあります。

「氷点」について、2006年秋に、旧ブログで記事にしています。
探して読み返してみて、驚きました。この頃、悩んでいたことを
今の私が完全に忘れていたことに驚きました。今の私にとっては
とるにたりないことを、その頃の私は深刻に悩んでいたんですね。(笑
その頃、悩んでいたことから自由になっていることを、
いいえ、その頃悩んでいたことから、たくさんのことを
学んで、今は感謝すらしていることを、
神様に感謝したくなった朝です!
心の中にあった氷を溶かしたのは、私じゃないから。。。


「氷点」、「続氷点」

物語は、北海道、旭川市に住む裕福な医者の家庭で、
外に遊びにだした子供が殺されるところから始まります。

そのとき、その家の妻は彼女に恋心を抱く勤務医の訪問を受けており、
夫は妻を疑い、裏切られたことに怒りを抱き、失った女の子の代わりに、
養女を育てたいと訴える妻に、殺人者の子供を育てさせることで復讐しようと
するのです。その子供の名前が陽子。陽子を女性として愛し、かばいながら
一緒に育つ兄の名前は徹。

やがて、その事実は、夫、啓造の思いを超えて妻の夏枝に知られることに
なり、夏枝の怒りは陽子に向けられていきます。健気な陽子は、数々の
嫌がらせを受けながらも、そのことで自分を歪めずに生きていこうと
最大限の努力を重ねて成長していきます。でもある日、どんなに努力を
重ねても、自分の血の中に殺人者の血が流れていることを知って絶望し、
自殺を図るのです。その後、命をとりとめた陽子のあらたな出生の事実が
明らかになり、大人になった陽子をとりまく二人の男性との関係や
周りの登場人物とのやりとりを通して、人間の思うように動かない
1人1人の人生と、それぞれの罪深さが徹底的に描かれていきます。

私はずっと、登場人物の1人1人がどのように、人を赦していくのか
が知りたくて、この物語から心を離すことができませんでした。
だけど、最後の最後まで、誰1人として劇的に変化を遂げる人はいなくて、
話はもつれたまま、終わりに向かいます。

ラストに近いところで、三浦綾子さんはこう書いています。

~人間同士の許しには、恐らく完全を求めることはできないであろう。
許したつもりが、いつまた憎しみが頭をもたげてくるかわからない。~と。

私は、ずっと苦しんでいました。自分を苦しめた人を許すことができなくて・・・
でも、逆にこの長い物語の最後に、三浦さんがこう書いてくださった
ことによって救われた気がしたのです。
そうです。私には、人を完全に許すことは不可能なのですと・・・

その後、流氷を見にいった陽子は、灰色一色の氷原に、夕陽が落ちていく
様を見て、キリストが十字架で流された血潮を思い起こし、人間の罪を
完全に許しうるただ一つの存在である神の圧倒的な実在に触れ、
愛する男性に電話をかけようと思いたつのですが、その前に、
どうしてもしなければならないことにあることに思いあたります。

陽子を生んでくれた本当の母を、潔癖な陽子は許すことができなかった。
夏枝の憎しみと怒りを理由もわからず、受けつづけて自殺まで
選んだ自分の人生を受け入れることができなかった。

健気に精一杯生きてきた陽子の中にも、限界はあり、
人を裁く罪はあったのです。そのため彼女の心は氷ついてしまいました。

彼女は愛する人の声を聞く前に、どうしても許すことができなかった人に
電話をかけるため受話器をとります。なにかにつき動かされているように・・・

十字架の上でほふられた子羊、キリストは、自分の命を犠牲にして
全ての人の罪を許し、そのキリストの前に頭をたれた陽子の心の
氷を溶かしたのでした。陽子はどんなに努力しても許すことができなかった
人を、自分を許してくれた神の恵みによって、違う目で見るようになります。

陽子の存在がその後、周りの人にどのような影響を与えていくのかは、
描かれていません。ただ、最後にかけた陽子の電話はまるで、私に
かかってきたかのように、私の心を動かして、氷ついていた私の心を
今も溶かしつづけているような気がするのです。
by clara19 | 2010-09-08 07:26 |